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月見草

花は夜ひらく、イブニングプリムローズ


根も葉も茎も、食用として利用されてきた北米大陸原産のハーブ、ネイティブアメリカンの歴史文献によく登場する月見草は食用ハーブとして、また食用以外でも、蜂蜜で煮込んで鎮痛効果のあるシロップにしたり、葉のパック剤を打撲や痔に当てたりと、薬草としても古くから活用されてきました。


月見草
かぐわしい香りとともに神秘的な光を放つ月見草の花

日本ではあまりなじみがありませんが、ヨーロッパでは葉をサラダとして食べる習慣があり、根や茎と一緒に煮込んだお肉の香りも好まれているそうです。

月見草には庭師のハムという別名もあるのですが、根がハム色をしているのだとオーストラリア在住のドイツ人から聞いた記憶があります。(20数年前の記憶です...朧です)

種子には皮膚の健康に欠かせない植物油のγリノレン酸が含まれ、脂質を酸化から守るビタミンEも豊富なため、サプリメントも数多く出回るようになりました。


芳香のある透きとおった黄色い花は、夏の初めから秋中頃まで咲いています。

日本でも街中のちょっとした空き地や道端に咲く花は、初夏の黄昏どきにいっそう目を引きつけるものがあり、せわしない都会の空気のなかで、そこだけ神秘的な光を放って幻想的な気配を漂わせます。

季節が進むごとに、花は一日中開くようになりますが、イブニングプリムローズという名をもつだけあって、夏のあいだは夕方に開き、朝にはしぼむをくりかえします。

江戸から明治のころ日本に入り、野生で帰化した月見草と呼ばれる種は5種類ほどあるようですが、いずれにしても荒れ地や道端などで生存してきた生命力の強さには脱帽します。



ハムとかロバとか


主にアロマや化粧品に使用されるオイルはアカバナ科マツヨイグサ属、学名Oenothera biennisの種から採油します。古くから親しまれてきたハーブらしく、別名・愛称をたくさんもっており、庭師のハムのほかにロバの野草、ロバ草、ロバハーブとも呼ばれます。

イブニングプリムローズは水はけの良い砂質土壌でよく育ち、開放的で日当たりのいい環境に自生し、また干ばつに耐えることもできる。根も葉も種子も食べたり飲んだり塗ったりと、人に役立つ効能をたくさん持っているハタラキモノ、確かにロバっぽいかな。

Oenothera biennisは黄色い花ですが、月見草の仲間には白い花を咲かせて薄ピンクに変化するものもあります。



色より香り


太陽が沈むのをまって、夕暮れ時から開花する花は、日中の暑さを避けて夜に活動を始める昆虫たちに花粉を媒介してもらうために、月の光のもとで花を咲かせます。

月の光だけでは暗すぎて、花の色で虫たちを誘うことはできないので、強い芳香を放ってお誘いします。

夜ひらく濃厚な花の香。

南国のエキゾチックな雰囲気を醸し出す第1人者ともいえるジャスミンやイランイランの香りをイメージすると、わかりやすいでしょうか。南国では日が落ちると、同じ場所でも周囲に漂う匂いがガラリと変化し、匂いが変わるとこれまた不思議なことに、同じ景色でも別世界になってしまう印象があります。



静謐で深い場所


日本でもちょっとした田舎にいくと、暗くなってから活動する虫や小動物、爬虫類などを見かけることがあります。田舎の虫は大きくて、初めはぎょっとしますが、と同時に普段すっかり忘れている脳機能の一部分を刺激されます。「ぎょっ」とするほどびっくりしないと、起動しない脳機能がある、ともいえますね。


周囲が暗闇で、見えないけれどそこに在る、うごめく気配を感じることで、いつもはみえていない世界との接点を思い出します。

原生林の山のなか

人けのない海辺

周囲にたてものがみえない野原

田んぼのあぜ道

うす暗い月明かりだけが光源で、夜に開花する花たちの濃厚な香りや草いきれが漂いはじめ、太陽の輝きのなかでは決して聞こえることのない、いろんな生き物の声や、空気の動く音が充満して、ふと知らない場所に来てしまったかのような心地よい孤独感を味わうとき、とても大切ななにか、忘れていたなにかを思い出しそうになり、郷愁のきもちに圧倒されます。


一瞬垣間みて、また記憶は朧になり、思い出せそうで、思い出せない。

静謐な暗闇のなかだけに顕われるその刹那。

夜の闇が運んでくるものは、こんなにもなつかしく、高揚感をもたらしてくれるのかと気づいたのは、その感覚が、夜開く花の香りが創出する芳香空間に、とても似ていたからだと思います。

夜開く花は夜行性の虫たちと共に生きる道を選び、それゆえ濃厚な香りを身の内にもつようになりました。その香りはきっと、人にとっても静謐さや多幸感、高揚感をもたらし、生命が誕生した瞬間の、純化された記憶がしまってある古代脳をゆすぶり、忘れてしまった記憶への道先案内をしてくれるのだと思います。



人、哺乳動物、虫/爬虫類 - 思考と、感情と、本能


脳は三構造でできており、一番外側の大脳新皮質はいちばん最後に発達した部分です。

また最大に発達した部分でもありますから、最新の最大脳ってことで、どんなことでも最新の機能でスパスパっと処理するのが好きなんだと思います。

処理しきれないものがあったら、ノイズか雑音、無駄情報、誤情報、もしくは認識不可情報として自動的にカットしてしまいます。なんだか面白みのない通訳者って感じもしますが、現代社会の常識人としてサイバイブするときには助けられることもあります。


その奥にある大脳辺縁系は古い脳で、哺乳動物が本能的に生きて活動するための脳といえます。

アニマル脳・動物脳はたくましい生命力、バイタリティーのうけもちで、海馬や偏桃体など、嗅覚と密接にかかわる機能もここにあります。感情、情感、気合、気力など、理屈だけではどうにも動かしようのないことを受け持ち、視床下部/下垂体もここにあるので、ホルモンバランスと免疫機能、神経系のバランスなど心身にとって重要な三つ巴のヒーリングシステムを司どっています。

昭和のころは珍しくなかった「浪花節だよ人生は」って感じの生きざまは、哺乳動物脳全開って感じがします。情に厚く、情にほだされやすく、なにもかも情一本で考え、判断し、つなぎとめてしまうような。

死か生か、戦うか逃げるかという究極の判断は、アニマル脳のなせるわざともいえます。


さらにその奥にある虫脳とも呼ばれる、脳幹・脊髄系は、意志とは無関係にふるまう神経で、虫や爬虫類的な反射行動を受け持っています。訓練によって反射は強化されるので、からだで覚える芸事や、くり返し続けることで無意識にクセになっているからだの使い方、顔に出てしまう表情筋の収縮など、本能センターを受け持っているといえます。





そこに在るけど見えないもの


虫脳は純粋な命のはじまり、生命の根源的意識体とつながる扉が隠された、秘密の場所かもしれないと考えることがあります。

都会の片隅でひっそりと、夜に開花する月見草をみつけると、どきりとして、ざわりとして、最終的にほんわかします。夜行性の虫たちと共生する月見草には、虫脳を刺激するなにかがあり、目にしたとたん、秘密情報の閲覧が可能になるのを、最新最大脳が阻止してくるから?なんて考えたりもします。

現代社会で生き続けるためには、無駄情報としてカットしなければならないものはたくさんあり、それは秘密情報として虫脳に蓄積される、人類なりにがんばって順応してきたシステムがあるのではなかろうかと。


月見草オイルが健康や美容産業界で注目されるようになった昨今、月見草はとても身近に存在するハーブだよとお伝えしても、なかなかピンとこない方がけっこういらして、逆に不思議だなぁと感じています。

日本に帰化した月見草は、あちこちの道端でよく見かけます。

それこそ毎日通勤路とか、買い物路に、見かけることの方が多いのではないかと思います。


見てるけど、見なかったことに。


現代社会のサバイブを優先している最大最新脳にとって、月見草は処理不可能な、厄介情報のひとつなのかもしれません。




*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。


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