top of page

アルガンノキ



アルガンの木はアフリカ大陸北西部に自生するアカテツ科の植物で、種子から採れる油がアルガンオイル(アルガニアスピノサ核油)として利用されます。ビタミンEの含有量が多く抗酸化力に優れていることから、現代では化粧品原料として有名になりました。

オイルの抽出はたいへんな労力を必要とするもので、まずアルガンの果実を数週間天日干し、その後石の間で挟んで粉砕し仁(じん)を取り出し、種子から油を搾ります。種子はヘーゼルナッツの16倍の硬さのため作業は非常に困難だそうです。一日1~1.5kg程度しか取り出せない貴重なオイルです。


貴重なアルガンオイル
一日1~1.5㎏程度しか取り出せない貴重なアルガンオイル

料理や美容、健康維持のためにアルガンオイルを活用してきた歴史は数世紀以前にさかのぼり、アトラス山脈ベルベル人の生活には欠かせないものでした。アルガンノキは大きなもので高さ10mに生育し、木は木工や暖房に、油を搾りとった後のかすや葉は家畜のごはんに使われます。



進化プロセス極まれり


アカテツ科の植物は世界中の熱帯域に生育しますが、ほとんどが標高1000メートル以下の熱帯多雨林に分布しています。なのでアカテツ科植物のなかでも、モロッコ産のアルガンオイルは、乾燥地帯に適応するための代謝産物を生成し、進化プロセスを積み上げてきたといえるでしょう。

夜間3℃から日中 50℃まで上がる半砂漠の乾燥地帯で、温度変化への耐性を獲得、根は水を求めて土中広く深く伸び、地下30mから水を吸い上げることができるそうです。年間雨量100 ~ 200mmの地域で生き残ってきた植物らしく、雨量がまったくない干ばつの年は、葉を落として休眠し数年を耐えるといわれています。乾燥地帯で生き抜いてきた植物の葉は、光合成をするときに水分が蒸発するのを抑えるため棘に進化します。アルガンノキも棘をもっているので葉を落としても必要最低限の光合成を保ちつつ、地下部位では根を発達させて水を吸い上げます。



人の細胞をまもり、次世代の植物をまもるビタミンE


アルガンオイルに含まれるビタミンEは植物のなかにある物質の名称としてトコフェロールと呼ばれます。それは過酷な環境下で生き残るための必須アイテム。干ばつの休眠中も次世代を担う種のなかにある脂質を酸化させないように守りながら、芽吹きの時を待っています。

人にとってのビタミンEも、優れた抗酸化力で体内の脂質を酸化から守り、細胞の健康維持を助ける栄養素といわれています。人のからだを形成する細胞は約60兆個あるといわれていますが、細胞が細胞としてのかたちと働きを続けるために、ひとつひとつが油とタンパク質でできた細胞膜で仕切られ、トコフェロール(ビタミンE)は細胞膜の脂質部分に入り込んで、細胞を酸化から守ると考えられています。



ヤギの生る木?


アルガンノキ自生地域では乾燥に強い家畜としてヤギを飼うことが多く、ヤギは葉や、熟す前の果実まで食べてしまうので、果実が乾燥して地面に落ちる6月頃まで、番人によって自生地域へのヤギの立ち入りが制限されるそうです。アルガンノキ番人...ヤギになめられたらアカン、すごい職業だと思います。

アルガン、アルガンノキ
ヤギの生る木?!いいえアルガンノキです。

環境によってつくられる姿と形


地上部には棘があり、休眠サイクルを自在に発動し、地下の根は活発に水を求めて生育し、ヤギとの共生をはかる(ヤギに食べてもらった種は糞として次の生育場所を得る)。

特徴を抜粋してみると、アルガンノキは地上部のことはあらかたヤギにおまかせし、生命エネルギーの重心は地下部にあるように思えます。太陽光がありすぎるなら、葉の一部を棘に進化させて活動を最低限に抑え、水が少ないのなら根っこの方に活動エネルギーをまわして水分獲得システムを充実させる。進化プロセスというのは、ほんとうに合理的なものだとつくづく感じます。


アルガンノキを筆頭に、さまざまなバイオームを形成する植物種は、その進化形態に沿って地球上の多様な環境を彩ります。

暑くて雨の多い場所、暑くて雨の少ない場所、温かくて雨が適度に降る場所、雨季と乾季がある場所、寒暖の差がはっきりして積雪がある場所、寒くて針葉樹さえ育たない場所。

-多すぎる、あるは少なすぎる水とどのようにつきあっていくか。

-強すぎる、あるいは弱すぎる太陽光とどのようにつきあっていくか。

-同じバイオームのなかで生きる虫や動物たちとどのように共生するか。

植物たちは棘をもったり、夜だけ花開いたり、強くて甘い香りを放ったり、数十年に一度しか花を咲かせなかったり、ロウ成分を身につけたり、あらゆる工夫を凝らして自然環境をおおいに活用し、生きるのにちょうどいい姿形になっていきます。

動植物の姿、形は環境によって創られ、その様相がまた、バイオームをバイオームたらしめて独特な世界観を形成します。



メタバースにもバイオームはできるのか?


バイオームのなかで進化プロセスを積み上げてきたのは人類も同じことですが、次に私たち人類が踏み出そうとしている新しい環境はデジタル世界。

NFT(非代替性トークン)の仕組みがほぼ完成されて、音楽やアート、アバターのデザインなどが独占所有でき、さらに転売が可能になることで、メタバース世界の実現がいよいよ本格的になってきました。

素人発想ですがメタバース世界ができたら、デジタル世界特有のバイオームらしきものが生まれ、その世界観が好きだ・居心地が良いと感じる人々が集い、その人々がさらに、ひとつの世界観を確固とした世界たらしめて、独特なシステムを形成していくのだろうなと思います。環境に合わせてプロセスが積み上がり、そこに流通する言葉や商品、アートやエンタメ、音楽がバイオームのようにグループ化される印象です。

自然環境では太陽光、水量、風量、その強弱による土質にあわせた生命種によってバイオームというグループ化ができましたが、デジタル世界のグループ分け要素は「印象」とか「エンタメ性」になるのでしょうか。

ゲームで例えるならドラクエの村とか、あつ森の町とか、マイクラ惑星とか、スマブラ競技場、モンハンの秘境、みたいなところで遊んだり、買い物したり、仕事したり。


メタバースでは日本から遠く離れたアルガンノキ自生地も、ライブ配信とVRでひとっ飛び、ヤギの番人とお喋りしたり、搾油作業を見学したりして、その日搾りたてのオイルを購入、なんてことも可能になるかもしれません。




*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。







最新記事

すべて表示

昆布

Comments


bottom of page